You are on page 1of 1

The Mainichi Medical Journal Information Column

鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山院長
家庭医診療科
岡田 唯男
家庭医(米国家庭医療学会認定専門医)。 Faculty
(指導医養成者の育成)。公衆衛生学修士。
Developer
普段は家庭医の育成と家庭医療の実践、週末は指導
医の育成。東海大学客員准教授、東京医科歯科大学
臨床准教授、WONCA アジア太平洋地区運営委員。

前回は自分を傷つける可能性のある活動
(ボクシングや 踏んでとられた説明と同意が真の IC。当然、短期間の風
総合格闘技)
による健康被害はということでいいのか、と 邪薬の投薬などにこの手続きを踏むのは煩雑で、侵襲の
1
いう問いかけをした 。 高い治療ほど、また、医師が患者にとってベストと考え
今回はインフォームド・コンセント
(以下 IC)
について考 る治療が受け入れられない場合ほど、この手続きをきち
えてみたい。まず IC が成立するための原則。単に書面を んと踏むことを実行したい。時々、待機的な手術の IC を
渡して説明してサインをもらって IC 成立、というわけに 手術日が決まって入院をしてから行う場合があるが、そ
はいかない
(多くがそのようにしているとは思うが)
。正確 の状況で自由意志に基づく同意ができるのか?
にはその過程が、informed、competent、かつ voluntary 本題は美容整形(鼻高術、豊胸術など)
について。米国
であるということを確認しなければならない。Informed では 16 歳の誕生日や高校卒業時に豊胸術を行う例が増
(説明を受けて理解している)
:説明したから相手が分かっ 加、母親がそれをプレゼントする場合もあり 3、韓国でも
ているとは限らない。古い調査だが、二重盲検ランダム 同様の話は雑誌などで目にする。仮に本人
(未成年の場合
化試験に同意をして、すでに参加中の被験者に尋ねたと は保護者)
が上記の正当な IC の手続きを踏んで手術に同意
ころ、プラセボ(偽薬)群の 44 %が「治療を望んだ人の一 したとしても、希望理由が
「鼻が高くないと就職に不利」
部はその治療を受けられない」
ことを、39 %の人は
「自分 「胸が大きくないと良い伴侶に巡り会えない」
だとすれば、
の主治医が、自分がどの治療を受けるか知らない」
ことを それは本当に
「誰にも強制されない」
同意なのか。L. Park-
知らなかった。1 人は
「プラセボは治療が必要ない人にの er 氏は、美容整形を希望する人たちの中には一定割合で、
み割り当てられる」と思っていた。別の 1 人(大学生レベ その時代の社会的な美の定義によって自らの価値観を左右
ル)
は治療の選択法に関して
「くじ引きなんてことはない される人たちがおり、それは IC の任意性が十分に担保さ
よね」とのこと 2。つまり「今の説明分かりましたか?」と れないから、手術を実施するかどうか (対象選別)につい
4
いう確認の方法ではいけない。特に日本人は何でも
「はい」 ては厳密である必要があると述べている 。他者からの視
といってしまう傾向があるから注意。Competent
(適切な 点がより意識される日本では、より重要な考えだろう。一
判断能力がある)
:認知症の方に不必要なリフォームを持 方で、その同意はそのような外的因子によるものではな
ちかけてお金を巻き取る、という事件があった。うつ病 いという論文 5 もあり、生命を脅かさないことへの医療行
の人の自殺を認めないのも、適切な判断のできる状態で 為だからこそ、希望の理由を厳密に尋ねる必要があるの
はないから。この informed と competent は密接に関連し ではないだろうか。
ており、その確認には、説明の後、
「今説明したことをど 最終的に決断したのは自分だから、という考えがある
のように理解したか、あなたの言葉で私に説明してくだ が、生き延びていくのに本当に選択肢がない人にとって、
さい。この治療を選択した場合としなかった場合にそれ 臓器売買や人身売買、性産業への転職は本当に自由意志
ぞれ起こりえることについても、あなたの理解を教えてく と言えるのだろうか。
ださい。
」が適切。Voluntary
(任意の、自由意志の)
:誰にも
参考
強制されていない、という意味。たとえ選択肢とその帰
1. 岡田 唯男. Column:自業自得? MMJ 2009;5, 9:573.
結について正確に理解し、判断できたとしても、特定の 2. Appelbaum, et al. False hopes and best data:consent to research
選択肢を選ぶような圧力下
(治療を拒否しなければ夫から and the therapeutic misconception. The Hastings Center Re-
(1987)
port .
の生活費が止められてしまうなど)
での決断は IC の成立と
3. Clayton V. msn. health & fitness. http://www.msnbc.msn.
は呼べない。確認の方法としては
「この決定は誰にも強制 com/id/17932515/wid/11915773?GT1=9951. May 11, 2007.
することはできません、また途中で気が変わったらいつで 4. Parker LS. Hypatia 1995;10:183-201.
5. Didie and Sarwer. Factors that influence the decision to undergo
も変更することができます。本当にあなたの意思による cosmetic breast augmentation surgery. Journal of Women's
決定ですか。
」の一言を入れる。それらの手続きを正当に Health(2003).

717 November 2009 Vol.5 No.11

You might also like