鉄蕉会　亀田ファミリークリニック館山院長
Column
2 つの桃のルール・
バナナをとれない猿
物語（story）は何らかの教訓を伝える際に直接よ
りもしばしば重みを持つ。今回は 2 つのたとえ話を
紹介したい。
2 つの桃のルール  ある村にとてもとてもおいし
1
い桃のとれる木があった。収穫のシーズンになると村
人が収穫を争って死人がでるほどだったため、村長は
「1 人 2 つまで。ルールを破ったら追放」という決ま
りを作った。それで争いは一切なくなった。何世代も
後になって、
桃の木はこぼれ種などから本数を増やし、
2 つの桃のルールを守らずとも全員に行きわたり、か
つ沢山の余りがでるまでになったが、誰もそのルール
を破らなかった。あるとき聡明な子どもが大人に向か
って、 「これだけ桃が沢山なっているのに、どうして
1 人 2 つしかダメなの？」と尋ねたところ、「昔から
そうだからさ。それを破ると死人がでるんだそうだ。
そんなことはごめんだ。 」
バナナをとれない猿 2,3,4 オリの中に 5 匹の猿と階
段。階段を上ると届くところにバナナをつり下げる。
当然猿は階段を上りバナナを取ろうとするが、階段に
触れた瞬間に、「全部の」猿に冷水を浴びせる装置が
ある。これをしばらく繰り返すと、あるときから、一
匹の猿がバナナをとろうと階段へ向かった瞬間に、他
の猿がその猿を全力で阻止し、袋だたきにするように
なる。その時点（条件付けが終了）で冷水の装置は取
り除き、猿を一匹だけ全く新しい猿に入れ替える。当
然その猿は何も知らないので階段の上のバナナを見つ
け、取りに行こうとするが、他の 4 匹の猿が全力で
阻止する。新しい猿は何度か階段にアプローチするが
毎回阻止されるため最終的には階段へのアプローチを
やめる。さてここで、もともといた猿をもう 1 匹新
しい猿に入れ替える。同じことが起き、先に入った 1
匹目の新しい猿も 2 匹目の新しい猿を止めにかかる。
最終的に 2 匹目の新しい猿は階段へのアプローチを
やめる。さらにもう 1 匹、もう 1 匹と入れ替えて、
もともとの 5 匹が全部新しい猿になるまで続ける。
52 March 2011 Vol.7  No.1
家庭医診療科
岡田　唯男
家庭医（米国家庭医療学会認定専門医）。Faculty
Developer（指導医養成者の育成）。公衆衛生学修士。
普段は家庭医の育成と家庭医療の実践、週末は指導
医の育成。東海大学客員准教授、東京医科歯科大学
臨床准教授。
全員が新しい猿に入れ替わった時点で、どの猿も 1
度も冷水を浴びされた経験はなく、なぜ階段に近づい
ては行けないかのもともとの理由を知る猿はいないに
もかかわらず、階段へ近づく猿を全員で阻止する、と
いう行動だけが残るのである。
これら話が事実なのかは確認できなかったが、その
こと重要ではない。この 2 つの話に共通する「教訓」
はなんであろうか。
特に 2 つ目の話はビジネスの世界で組織の硬直化
はなぜ起きるか、のたとえとしてよく引き合いに出さ
れる。桃の話も含め、「以前からそうだから」「そうす
るよう上司から言われたから」という既成事実だけが
1 人歩きをしてしまう。そのルールが導入された当時
は正当な理由があったかもしれないが、すでに状況が
変わっており、ルール自体が意味をなさないにもかか
わらず、「ルールはルール、守るもの」というルール
だけが堅守され、ルールそのものの妥当性の見直しが
されない。朝令暮改は迷惑だが、一方で、すでにその
現実的存在価値を失ったルールを見直すことがなけれ
ば、組織は存在理由を失ったルールにより硬直化して
ゆくのである。
ルールの遵守のために人がいるのではなく、人の幸
せのためにルールがあるのだから、それが人の幸せに
貢献しなくなったらルールを変えなければならない。
自らに課しているルール、所属する組織のルールで
すでにその存在意義を失っているものはないだろう
か。誰のための、何のためのルールなのか、見直す機
会をぜひ持って頂きたい。医療行政も含めて。
参考文献：
1. 原典は定かではないが誰かの講義で聴いたのを鮮明に覚え
ている。
2. バナナをとれない猿、もしくは "Start with a cage containing
five monkeys" で検索すると多数のサイトが見つかる。心理
学の実験とされるが原典は見つけられない。
3. 企 業 文 化 が 形 成 さ れ る 経 緯 <http://www.geekpage.jp/
blog/?id=2007/10/22>
4. 5. Monkeys（数分のビデオで猿の話が見られる）<http://
www.youtube.com/watch?v=KZeiSKnhOBc>